転換期における中国ビジネスのリスクマネジメント

執筆者:杉田俊明(甲南大学

以下原稿の一部は
りそな総合研究所『りそなーれ』20073月号に掲載されている。

本文の主旨
 「工場としての中国」を目指して、特に90年代から世界中の企業が直接投資を行い、中国に殺到した結果、06年末までに契約認可ベースでは約60万社もの現地法人が設立され、いまでは世界的に知名な製造企業に中国で現地法人を持たない企業は皆無と言ってよく、中小企業も挙って進出している状況である。

そして、急速な経済成長を成し遂げ、潜在的から顕在的になりつつあるこの巨大な消費市場、つまり、「市場としての中国」を目指して、世界中の企業は製造拠点を維持しつつも、販売拠点への転換を図り、しのぎを削っている。

ところで、中国に殺到した外資企業間における過当競争だけではなく、急成長している中国企業との競争も加わって中国でのビジネスはいまや国際ビジネスの激戦区になっている。

さらに、中国の経済成長と中国企業の台頭を受けて、いままでに外資誘致のためにあらゆる優遇政策を用意してきた中国政府や中国の地方政府は、市場開放と規制緩和を謳えながら、外資に対する従来の優遇政策の縮小や撤廃、あるいは外資直接投資の制限を打ち出している。一部ではナショナリズムの高揚により、日本企業や日系企業を含む外資企業の製品に対するバッシング的な動きも表面化しつつある。

そして、高度成長に伴うエネルギーの高度消費から、電力などを含むエネルギー資源や水資源が不足し、産業資材調達コストの高騰、あるいは管理職人材の不足や熟練労働者の人件費の高騰も含め、現地での企業運営に支障を来たすケースが増えつつある。

人民元対米ドルの切り上げ問題も含め、外資企業の中国での経営、あるいは中国ビジネス全体にとって早急に検討し、対応しなければならない課題がいま、数多く浮かび上がっている。対中国との貿易は引き続き高い伸びを示している中、対中国への直接投資はいま、第三次ブームが過ぎて調整期にあり、新たな転換期を迎えようとしている。

実は、筆者はすでに93年の時点で、論文「中国進出必須五箇条」(『フォーサイト』同年10月号、新潮社)を発表し、96年では著書『中国ビジネスのリスク・マネジメント』(ダイヤモンド社)も刊行し、多くの失敗事例から成功するための法則を記述している。第二次中国ブームの真直中、なりふりかまわず中国に殺到している企業が多い中で、当時、実際に対中国ビジネスの実務を担当していた筆者の冷静な分析が評価され、前掲論文は94年に、ダイヤモンド社より、93年度ベスト論文に選出されている。

当時から筆者が強調したポイントは現在も変わらず、実用的なものであるために、ぜひ合わせて一読いただきたい。ここではそれらとの重複を避けながら、転換期における中国ビジネスのリスクマネジメントの体系を包括的に示し、その主な課題を取り上げて解説するものである。 

関連参考文献

杉田俊明『中国ビジネスのリスク・マネジメント』ダイヤモンド社、96

杉田俊明『国際ビジネス形態と中国の経済発展』中央経済社、02

杉田俊明「中国進出必須五箇条」新潮社『フォーサイト』、9310月号

杉田俊明「アジアへの直接投資と現地経営ーーー日本企業の課題」ひょうご経済研究所『ひょうご経済』、05年(No.88


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メールTO: toshi.sugita@nifty.com
杉田俊明研究室(甲南大学経営学部)
更新 2007/02/20
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