大競争時代に勝つための「提携」:三つのタイプ

執筆者:杉田俊明

甲南大学ビジネス・イノベーション研究所兼任研究員(甲南大学経営学部教授)
甲南大学ビジネス・イノベーション研究所 News Letter 2007 No.06 掲載分

印刷用/pdf版は こちらのリンクへ

 グローバル大競争時代において、企業はより迅速に、より柔軟に市場での対応行動を取ることが求められる。相対的に少ない経営資源の投入にも関わらず、より迅速に、より柔軟に行動を取るための重要なビジネスツールの一つに、「提携」がある。

 ところで、提携の定義や概念は簡単そうに見えるが難しい。当研究所では目下、「提携」に関する研究に取り組み、それぞれの担当者がそれぞれの専門分野から多面的な解析を進めているが、議論は百出している状況である。

もっとも、提携自体は多種多様であるために、結論を一つにまとめる必要性もない。本稿では、グローバルビジネスを中心に行われている提携についての従来の学説を簡潔に紹介しながら、筆者の考え方を述べてみたい。

国際的に「提携」を語る時は主としてAllianceが使用されているが、他にも同意語としてPartnershipCooperationCollaborationTie upなどが使用されている。

グローバルビジネスにおいていままでに提携は主に四つのタイプに分類されていた(M.Y.Yoshino & U.S.Rangan1995)。それはそれぞれ、Procompetitive Alliance(補完的提携)、Noncompetitive Alliance(非競争的提携)、Competitive Alliance(競争的提携)とPrecompetitive Alliance(競争前段階としての提携)である。

補完的提携は競争に至らない補完的なものであり、川上と川中または川下企業など工程間、あるいは異業種企業間における異種の融合であるケースをいう。

非競争的提携は、同業種間だが異地域での展開などのように、ライバル関係が強くない企業間における提携を指す。

競争的提携は同業種間におけるライバル企業同士の提携を指す。互いに同様の価値連鎖をもつために提携による相互作用が強く、学習効果も大きいが、技術流出など課題も多い。

競争前段階としての提携は異業種間における異種技術の提携など、事業化前段階での提携を指すが、最終製品が事業化するとライバル関係に発展することが多い。

これら従来の分類に対して筆者は以下の三つのタイプに分類している。従来型水平・垂直補完的提携(Alliance)、異業種間非競争的提携(Collaboration)、そして、戦略的提携・競争的提携(Strategic Alliance, Competitive Alliance)である。

従来型水平・垂直補完的提携の主な特徴は相互業務協力である。製造・調達提携、販売提携、技術提携などがその通例である。日本企業においてはこのタイプの提携は従来、アウトソーシングとしてよく知られ、広く利用されている。

異業種間非競争的提携は日本では一般に「コラボレーション」として理解されている。昨今では、多店舗展開から衣料品の拡販を狙うSPA企業と土地開発や建築を得意とする建設会社間における相互補完、あるいは経費を分担し同一のコマーシャル枠で異業種の商品をさりえなく演出するスポンサー間の相互協力がその典型である。

戦略的提携は、ライバル企業同士がグローバル大競争時代において、もっとも迅速、かつ、柔軟に市場参入するために使用する、もっとも大胆なビジネスツールの一つである。このタイプの提携は、もっとも効果的である場合と、もっともリスキーである場合がある。

つまり、従来型水平・垂直補完的提携や異業種間非競争的提携はあくまでも相互補完を意図する業務提携であり、アウトソーシング、あるいは業務協力であるに対して、戦略的提携の本質はあくまでも競争であり、特定な戦略を意図した提携である。ライバルの経営資源を利用し、部分的に協調しながらも、自社競争力の向上を図り、最終的には自社の戦略的目標の達成を図るものである。

この場合、提携の双方にとってWinWinの関係が本来、望ましい。だが、最終的に一方が他の一方に勝ち、相手を吸収・合併することも希ではない。弱小の中国企業が本来強い日本企業を含む外資企業と戦略的提携を行い、最終的に提携先を上回る成長を成し遂げ、提携の相手先本体や子会社の一部を実質買収する事例がその典型的なものである。

戦略的提携の意味についてある英単語で見れば分かりやすい。協調はCooperationで、競争はCompetitionだが、戦略的提携はちょうどその双方の要素を織り込んだCoopetitionである。中国語でも、「競争」と「合作」(協力・協調)の双方を取り、「競合」と表現されている。

ちなみに、ハーバードビジネススクールで使用された教科書を執筆したGary Hamel, Yves L. Doz and C. K. Prahalad1995は彼らの論文のタイトルに「ライバルと提携し、そして勝てよ」とし、そして「(提携すると同時に)自社コアコンピタンスの強化を図ろう」と提携の本質を強調している。

注:本稿に関わる詳細内容は筆者による本研究所の報告書(2006年度)を参照されたい。

 
主要参考文献

Christopher A. Bartlett, Sumantra Ghoshal
Transnational Management: Text, Cases, and Readings in Cross-Border Management, Second Edition 1995, by The McGraw-Hill Companies, Inc

Yoshino,M.Y., Rangan, U.S., Strategic Alliances, Harvard Business School Press,1995

竹田志郎『多国籍企業の競争行動』文真堂、2006

竹田志郎編著『新 国際経営』文真堂、2003

竹田志郎『多国籍企業と戦略提携』文真堂、1998

杉田俊明「中国企業の成長と国際化 ケース・スタディでみる海爾(ハイアール)の『戦略的展開』の含意」『21世紀多国籍企業の新潮流』(多国籍企業研究会編)ダイヤモンド社国際経営研究所、2003 所収


(本文の関連詳細全文は現時点では一般非公開)

メールTO: toshi.sugita@nifty.com
杉田俊明研究室
更新 2006/12/09
ライン
トップ・ページ へ         
関連参考文献一覧のページへ