論文:急成長する中国との競争と共存

ケースに見る対中ビジネスと日本企業の対応について

執筆者:杉田俊明(甲南大学


要旨

1978年、中国はそれまでの閉鎖体制を改めて改革開放政策を取り始め、市場経済への転換を図り始めた。とりわけ92年以後、中国は市場経済に対する認知を公的に認め、一層の対外開放と経済改革を進めてきた。その結果、中国はここ10年において、世界においてもっとも高い経済成長率を維持してきた国として、注目を浴びている。

対外開放と外資に対して設けられたさまざまな優遇政策に惹かれ、また、世界の工場としての魅力、世界最大の市場としての魅力に惹かれ、各国の企業は対中国への直接投資を加速している。改革開放政策の実施がスタートした80年頃からの第1次中国ブームと、市場経済体制への転換がより明確になった92年、93年頃の第2次中国ブームに続き、WTOへの加盟を目前にした2000年からは第3次中国ブームが到来している。

それに、対中直接投資のみでなく、中国企業との戦略提携例も昨今急増している。対中ビジネスはより多くのビジネス形態により、より多くの分野にて、より広範囲にわたって展開されているのが今日の実情である。

一方、中国においては世界有数の多国籍企業も含め、強豪が林立しているために競争が激化している。また、中国企業が強かに、逞しく成長を遂げているために、日本企業は、中国国内にとどまらず、日本や国際市場においても熾烈な競争に直面している。

本稿は主として中国において行った企業実態調査の結果に基づき、ケース・スタディを行い、ミクロの企業経営の観点から対中ビジネスの現況を明らかにし、対中ビジネスの展開による中国企業との競争と共存のあり方について検討を行いたい。各節の構成として、

1節は主として中国経済の概況や対中ビジネスの概況をレビューする。

2節はケース・スタディである。ここでは、中国に進出し、中国のパートナーとともに、ものづくりの分野に経営資源を集中し、OEM生産に徹することにより成功を収めている企業、対照的に中国企業や中国における外資系企業の経営資源を巧みに活用しながら、企画、生産から店頭販売までの自社の一貫管理によって急成長を遂げた企業、中国進出の競争優位を活用しながらも日本の相対的に高度な素材や加工産業などを活用し、より差別化されたものづくりと顧客対応により成功を勝ち取っている企業が紹介されている。

3節は、ケース・スタディにおいて取り上げた企業の事例を中心に、中国企業との競争と共存のあり方について検討を行っている。


本論文は国民生活金融公庫総合研究所『調査季報』第64号(2003年2月)に掲載されたものである。

メールTO: toshi.sugita@nifty.com
甲南大学 杉田俊明研究室
最終更新 2003/01/10
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