研究報告:中国企業の成長と国際化

杉田俊明(甲南大学

2003年12月8日、於慶応大学
多国籍企業研究会全国大会研究報告・要旨

 中国が改革開放政策を打ち出した1978年以後、世界中の企業が中国に投資するようになった。とりわけ2000年以後、中国のWTO加盟により、外資による中国への進出が一層拍車がかかっている。中国対外貿易経済合作部(現、商務省)の発表によると、2003年2月末現在、中国における外資系企業は投資契約ベースで429,588社に達しているという。電機産業は繊維産業と共にもっとも早く対中進出を果たしていた産業であり、欧米の多国籍企業、あるいは韓国など新興経済発展地域の企業も中国において多くの現地法人を設立している。もっとも早く対中進出を果たした日本企業として、1981年や1982年段階に日立が電機メーカー対中進出第一号として福州に進出し、三洋電機はそれに続き、深せん(蛇口)に進出してから、もはや20年が経つのである。現在、電機産業の多国籍企業は中国にて出揃い、各社とも複数の現地法人を運営しながら熾烈な競争を展開し、世界の工場としての中国、あるいは市場としての中国を自らの経営の中で活かそうとしている。
 ところで、このような強豪林立、競争激烈の中で、中国の企業は逞しく成長し、世界進出までも果たしているのである。その代表格の中国企業はハイアール(海爾)である。
 2002年度のハイアール(グループ。以下同)の売上高は720億人民元(約1兆1千500億円)に達している(中国『国際金融報』2003年2月26日付け)。1984年、ハイアールが再建し始めた時点の売上高は0.04億元だったので、単純計算で18年間において18000倍の成長を遂げたことになる。
 ハイアールの中国におけるマーケットシェア(2001年度)は、中国国家統計局中怡康公司の発表によると、冷蔵ケース33.9%、冷蔵庫26.96%、掃除機26.58%、洗濯機25.94%、エアコン19.3%であり、大きなプレゼンスをもっている。日本においては、ハイアールは2002年1月に三洋電機と包括提携を行い、三洋電機の販売協力により日本市場への攻略を進めている。米国においては、進出わずか3年前後で、小型冷蔵庫分野においてはそのマーケットシェアはすでに約40%に達しいるという(前掲『国際金融報』)。
 世界の企業が中国への直接投資に躍起になっている中で、ハイアールはすでにアジア、中近東、欧州、北米などにおいて13箇所の工場を立ち上げ、相対的に順調に稼動し、従来において日本企業や他の多国籍企業のマーケットシェアを着実に勝ち取りつつある。
 2001年8月6日付けの米誌FORBES GLOBAL はTop ten makers of large kitchen appliances において、ハイアールを第6位(台数ベースの市場シェア)に選出している。松下電器産業は第9位で、シャープは第10位で「家電王国日本」のランク入りはこの2社のみである。2002年4月号の米Appliance Manufacturer も、2001年度の米国のマーケットシェアにおいては、冷蔵ケース:ハイアールは8%で第3位、ルームエアコン:9%で第5位と報道している。さらに、2002年10月号のEuromonitorによると、世界白物家電においてハイアールは第5位だという。このように、ハイアールの国際的なプレゼンスはますます高まっている。
 ちなみに、中国全体の対外直接投資(金融関連除く)も、対外経済貿易合作部の資料によると2002年9月末現在、累計で6849社に達し、契約金額は135.31億ドル、うち、中国側の契約投資額は91.34億ドルに達しているという。
 ハイアールの急成長と対比すると、日本家電企業はここ20年、対中ビジネスにおいては以下のような軌跡を辿ってきたのである。
●第1段階(80年代初頭から90年代初頭まで):中国進出と中国市場を席巻する段階、
●第2段階(90年代中盤から):中国企業と中国市場で競争する段階、
●第3段階(90年代後半から):中国企業と国際市場で競争する段階、である。
このように、対中ビジネスのパラダイムは明らかにシフトしている。中国ビジネスは「中国とのビジネス」「中国でのビジネス」から、「グローバルビジネス」へとシフトしているのである。多国籍企業にとって、中国ビジネスをグローバルビジネスの中でどのようにして再定義できるのかが、いま、問われている。
 ハイアールが急成長できた要因としては、戦略思考で名高いCEO、張瑞敏氏の資質やリーダーシップ、ハイアールの経営戦略(品質・ブランド戦略、外資利用戦略、M&Aによる内資改造戦略など)、マネジメントとオペレーションシステムなどが挙げられる。ここではとりわけハイアールの提携戦略(外資利用戦略)が取り上げられている。
 ハイアールは明確な戦略の下で、戦略としての提携を実行している。例えば、1984年、瀕死に直面する中小企業としてハイアールはドイツのLIEBHERR社より冷蔵庫の製造設備と技術を導入した。その後、習得・改良し、90年よりドイツへの輸出を果たし、本家を上回る企業に成長している。1993年、三菱重工と合弁し、エアコンの製造技術を導入した。これにより、ハイアールは冷蔵庫専業メーカーから本格的にエアコンの製造・販売にも進出し、総合電機メーカーへの発展のきっかけを掴めた。1994年、日本GKデザインと合弁し、工業デザインのノウハウを導入した。その後、デザイン各賞を獲得し、家電分野のみならず、2002年では中国ブランド価値No.1の座に着いた(海爾のブランド価値は489億元だと評価されている)。2002年、三洋電機と包括提携し、日本市場進出の橋頭堡を確保した。この提携により、ハイアールは日本でのブランド・イメージの弱さ、販売力・販売網やアフター・サービスの不備をカバーすることができ、自社ブランド製品が繊維製品のように日本の隅々に浸透するための体制を構築できた。 
 最後に、ハイアールの急成長の背後に潜むさまざまな問題点と課題も指摘しなければならない。例えば、コーポレートガバナンスに関わる諸問題、デスクロージャーに関わる諸問題、国際ビジネスの専門知識、キャッシュー・フロー経営手法の応用などの課題を含め、急進的事業展開に伴い、発生している諸問題がハイアールの今後における更なる発展のための課題となる。

 注:本要旨は2003年3月加筆修正分である。本報告内容の詳細については、杉田俊明『国際ビジネス形態と中国の経済発展』(中央経済社、2002年)並びに近刊予定の本書新版を参照されたい。

本研究会にご出席された方は ⇒ 本リンク (詳細スライド)をご利用してください。

メールTO: toshi.sugita@nifty.com
杉田俊明研究室(甲南大学経営学部)
更新 2003/04/2
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